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第一章 過去と現在が交差する30

last update Last Updated: 2025-01-13 17:06:54

自分の席に戻って、いつも通り仕事をこなしながら時間が過ぎていく。

明日は早いから仕事を切り上げて帰る準備をしていると「紫藤さんによろしく」なんて言って千奈津は笑っていた。

「そんな気軽に話しかけられるわけないじゃない」

「冗談よ。お土産はちんすこうでいいから」

「買う余裕があればね」

「お疲れー」

会社を出て電車で家に帰る。

いつもと同じように日常を過ごしていたのに、感づいたかのように家に戻った途端、母から電話がかかってきた。

『もしもし、美羽。元気にやってるの?』

「うん。仕事はちょっと忙しいけど、元気」

『変わったことはない?』

「そうだね、普通な毎日かな」

『そう』

安心したような母の声を聞いたら、明日大くんに会うなんて言えなかった。

一番心配して、近くにいて慰めてくれた母に心配をかけたくない。

大くんと同じ空間にいると知るだけで母は不安になると思う。だから黙っておこう。いずれコマーシャルがテレビに流れたら一緒に仕事をしたのかと聞かれるかもしれないけれど……。

「仕事が落ち着いたら帰るから」

『約束よ』

電話を切って深い溜息をついた。

土、日とたった二日間、一緒にいるだけのこと。

大丈夫。

しっかり仕事をしてくるだけ。

だから、大丈夫。

結局、あまり眠れずに朝を迎えてしまった。早めに起きて化粧をする。

いつもより念入りにしているのは、大くんに会うからじゃなく、自分を隠したいからなのかもしれない。

何も食べないと体力的に辛いから、パンをトーストして食べた。

少し、気持ちが悪い。極度の緊張から体調が万全ではないのかもしれない。

『はな』も連れて行く。

しおりは私のお守り代わりなのだ。はながいれば、絶対に大丈夫。鞄の内ポケットにそっと差し込んだ。

空港で杉野マネージャーと待ち合わせた。お互いにスーツを着て落ち合う。私は今日はパンツスーツをチョイスした。

「おはようございます」

「おはよう。よし、行こうか」

この飛行機に乗ってしまえば、大くんに会うことになる。

閉まっていた扉が一気に開いてしまう。地獄行きか。天国行きか。

付き合いはじめた日の十一月三日は、果物言葉によると『相思相愛』だった。でも、その可能性は限りなくゼロに近い。

大くんには、綺麗な彼女がいるし、芸能人――それもトップスターと一般人が本気で交際なんてできないに決まっている。あまりにも生きる世界が違いす
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    少し眠くなってきたところで、玄関のドアが開く音が聞こえた。立ち上がって迎えに行こうとするがお腹が大きくなってきているので、動きがゆっくりだ。よいしょ、よいしょと歩いていると、ドアが開く。大くんがドアの前で待機していた私は見てすごくうれしそうにピカピカの笑顔を向けてきた。 そして近づいてきて私のことを抱きしめた。「美羽、ただいま。先に寝ていてもよかったんだよ」「ううん。大くんに会いたかったの」素直に気持ちを伝えると頭を撫でてくれた。私のことを優しく抱きしめてくれる。そして、お供えコーナーで手を合わせてから、私は台所に行った。「夕食、食べる?」「あまり食欲ないんだ。作ってくれたのなら朝に食べようかな」やはり夜遅くなると体重に気をつけているようであまり食べない。この時間にケーキを出すのはどうかと思ったけれど、早く伝えたくて出すことにした。「あ、あのね……これ」冷蔵庫からケーキを出す。「ケーキ作ったの?」「うん……。赤ちゃんの性別がわかったから……」こんな夜中にやることじゃないかもしれないけど、これから生まれてくる子供のための思い出を作りたくてついつい作ってしまったのだ。迷惑だと思われてないか心配だったけど、大くんの顔を見るとにっこりと笑ってくれている。「そっか。ありがとう」嫌な表情を全くしないので安心した。ケーキをテーブルに置くと私は説明を始める。ケーキの上にパイナップルとイチゴを盛り付けてあった。「この中にフルーツが入ってるの。ケーキを切って中がパイナップルだったら男の子。イチゴだったら女の子。切ってみて」ナイフを手渡す。「わかった。ドキドキするね」そう言って彼はおそるおそる入刀する。すると中から出てきたのは……「イチゴだ!」「うん!」お腹の中にいる赤ちゃんの性別は女の子だったのだ。「楽しみだね。きっと可愛い子供が生まれてくるんだろうな」真夜中だというのに今日は特別だと言ってケーキを食べる。私と彼はこれから生まれてくる赤ちゃんの話でかなり盛り上がった。その後、ソファーに並んで座り、大きくなってきたお腹を撫でてくれる。「大きくなってきた」「うん!」「元気に生まれてくるんだぞ」優しい声でお腹に話しかけていた。その横顔を見るだけで私は幸せな気持ちになる。はなを妊娠した時、こんな幸福な時間がやってくると

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    美羽side結婚パーティーを無事に終えることができ、私は心から安心していた。 私と大くんが夫婦になったということをたくさんの人が祝ってくれたのが、嬉しくて ありがたくてたまらなかった。 しかし私が大くんと結婚したことで、傷ついてしまったファンがいるのも事実だ。 アイドルとしては、芸能生活を続けていくのはかなり厳しいだろう。 覚悟はしていたのに本当に私がそばにいていいのかと悩んでしまう時もある。 そんな時は大きくなってきたお腹を撫でて、私と大くんが選んだ道は間違っていないと思うようにしていた。自分で自分を肯定しなければ気持ちがおかしくなってしまいそうになる。 あまり落ち込まないようにしよう。 大くんは、仕事が立て込んでいて帰ってくるのが遅いみたい。 食事は、軽めのものを用意しておいた。 入浴も終えてソファーで休んでいたが時計は二十三時。 いつも帰りが遅いので平気。 私と大くんは再会するまでの間、会えていない期間があった。 これに比べると今は必ず帰ってくるので、幸せな状況だと感で胸がいっぱいだ。 今日は産婦人科に行ってきて赤ちゃんの性別がはっきりわかったので、伝えようと思っている。手作りのケーキを作ってフルーツの中身で伝えるというささやかなイベントをしようと思った。でも仕事で疲れているところにそんなことをしたら迷惑かな。 でも大事なことなので特別な時間にしたい。

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   完結編・・・第一章16

    「そんな簡単な問題じゃないと思う。もっと冷静になって考えなさい」強い口調で言われたので思わず大澤社長を睨んでしまう。すると大澤社長は呆れたように大きなため息をついた。「あなたの気の強さはわかるけど、落ち着いて考えないといけないのよ。大人なんだからね」「ああ、わかってる」「芸能人だから考えがずれているって思われたら、困るでしょう」本当に困った子というような感じでアルコールを流し込んでいる。社長にとっては俺たちはずっと子供のような存在なのかもしれない。大事に思ってくれているからこそ厳しい言葉をかけてくれているのだろう。「……メンバーで話し合いをしたいと思う。その上でどうするか決めていきたい」大澤社長は俺の真剣な言葉を聞いてじっと瞳を見つめてくる。「わかったわ。メンバーで話し合いをするまでに自分がこれからどうしていきたいか、自分に何ができるのかを考えてきなさい」「……ありがとうございます」俺はペコッと頭を下げた。「解散するにしても、ファンの皆さんが納得する形にしなければいけないのよ。ファンのおかげであなたたちはご飯を食べてこられたのだから。感謝を忘れてはいけないの」大澤社長の言葉が身にしみていた。彼女の言う通りだ。ファンがいたからこそ俺たちは成長しこうして食べていくことができた。音楽を聞いてくれている人たちに元気を届けたいと思いながら過ごしていたけれど、逆に俺たちが勇気や希望をもらえたりしてありがたい存在だった。そのファンたちを怒らせてしまう結果になるかもしれない。それでも俺は自分の人生を愛する人と過ごしていきたいと考えた。俺達COLORは、変わる時なのかもしれない……。

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